
サイエンスアゴラは、独立行政法人科学技術振興機構が2006年より実施しているイベントであり、科学と社会をつなぐ実践を行っている団体・個人の集まる広場(アゴラ)を目指している。NUMAP はこれまでの取り組みを実践的に紹介するため、昨年度より参加している。昨年度は100団体近くが採用されている小規模ブースでの参加であったが、今年度は公募時で5団体のみ採用の大型ブースに応募し、採用された。
NUMAP は大学発のアウトリーチを指向しており、広い分野のサイエンスの成果、魅力を市民に伝えることを目的として活動を行ってきた。それまでの活動を改めてサイエンスアゴラ会場で展開し、新たな活動の機会を得ること、そして類似の活動を学ぶケーススタディを行うため昨年度初めて参加した。加えて、サイエンスコミュニケーションという用語が科学技術コミュニケーションと同義で用いられることもあり、この点に一石を投じるべく、敢えて人文科学分野である考古学を全面に押しだした企画を実施した。規模は小さかったが、実物資料を用いたハンズオンの取り組みの可能性を、多くの参加者に伝えることができたと考える。
ドキドキ!土器の秘密

縄文土器にさわってみよう!
実物の縄文土器にまず触れてもらうことに主眼を置いている。さらに発展的内容として、それぞれに異なる文様が刻まれていることに気づき、その技術の高さや芸術性に気づいてもらうことを目的とした。
土器の文様にチャレンジ!
前節での内容を受け、施文に使われるさまざまな道具やその工夫について知ってもらうことに主眼を置いている。昨年度のホームカミングデイより同様の企画を行ってきたが、作っている文様と縄文土器の文様との類似性についてなかなか気づいてもらえていないという感触があった。スタッフが直接コミュニケーションを取ることである程度は解決できるが、今回はスタッフがいなくとも参加者が自律的にこの点を意識しながら学べるように構成を工夫した。
さわってみよう!縄文の道具たち
のぞいてみよう!縄文のキッチン
石皿とすり石を用いてじっさいにどんぐり等をすり潰す体験を行った。一昨年度のホームカミングデイより継続して実施してきた企画である。縄文時代にどんぐりが多く使われていたことに加えて、なぜ出土品を遺物と同定できるのかといったところまで適宜説明を行った。遠くからでも目を引き、子どもに人気であったが、縄文時代と同じ道具を使う体験ということで大人の参加者が非常に顕著に反応していた。
頼れる仲間!石器のいろいろ
打製石器および実験的に製作した剥片を用いたブースである。本物の打製石器に触れることに加え、剥片で実際に革紐を切断してみる体験から、石器製作時のプロセスや工夫、実用性について学んでもらうことに主眼を置いている。
発掘現場再現

サイエンスコミュニケーションにおいて、サイエンスそのものではなく過程を提示する取り組みが広く行われつつある。
このような「研究の動態展示」は、日頃見られない世界を覗くという行為から参加者の好奇心を満足させるだけでなく、その好奇心を出発点とし、各プロセスがどのような意味を持っているのかという視点を通じたサイエンスコミュニケーションを可能とする。
NUMAP では、今回初めての試みとして考古学における研究の動態展示を目的として本ブースを企画した。
発掘現場を再現し、加えて発掘に用いる道具を展示することにより、発掘そのもの、前後の作業がどのようなものか、そこから何が分かるのかを伝えることを目的とした。
発泡スチロール表面に表土及びローム層を模した砂を厚く固着させることによって製作した。ピットを模した形状とその断面、そして層序を併せて製作することで、遺構がどのように発見されるのか、また層序の概念や遺構の「切り合い」が考古学のサイエンスにおいて非常に重要であることを提示した。
1日に2回、発掘作業のデモンストレーションを行った。参加者の年齢層に合わせてトークの内容を変え、クイズを用いるなどしてより没入できるよう工夫した。加えて、興味を持った参加者に対しては随時説明を行った。今回が初めての製作・使用であり、他にあまり例がないことから不安を抱えた企画であったが、実用性と可能性を非常に強く感じることができた。
製作体験コーナー

他のブースと異なり、参加者が製作物を持ち帰ることができるブースである。ハンドクラフト様の体験であり、他の企画にはない訴求力を持つ。
縄文のアクセサリー、貝輪を作ろう
今年度のホームカミングデイより実施している企画であり、縄文~古墳時代にかけて製作された装飾品である貝輪の製作体験を行っている。
縄文の布、アンギンを編もう!
縄文時代に広く使われた布であるアンギンを実際に編んでもらう体験である。当時の技術の高さや工夫に気づいてもらうとともに、実用的な製作体験を通じてより考古学に親しみを持ってもらうことを目的としている。今回は麻紐を染めることで、より製作物への愛着を高め、実際に活用してもらうことを目指した。
内装デザイン

より参加者の没入感を高めるために、これまでよりいっそう統一された意匠でブース全体を構成した。考古学の「土っぽい」イメージを払拭し、ポップで親しみやすく、さらに情報をしっかりと伝えるデザインをめざしている。
室内での視認性を考慮し、また明るい印象を与えるトーンでの色設計を行った。これには今年度のホームカミングデイにおける反省も盛り込まれている。
各ブースの背後、机上(2箇所)、机下にブースのタイトルを示すことでよりブースおよびブース内それぞれの視認性を高めている。
これまで火焔式土器をモティーフとしたオリジナルのキャラクター「カエンシキドキくん」を用いてきたが、今回は20パターン近い表情や身振りのパターンを製作し、視覚的に掲出場所のシチュエーションを認識しやすくした。
アンケート結果
まとめ
今回は広大なブースを利用して異なるテーマで4つのブースを設置した。それぞれの詳細については次章に詳述する。これまでの取り組みをより深化させ、サイエンスや体験内容をブラッシュアップするとともに、ホスピタリティや視認性、没入感にも高いレベルを求めることで、「トータルで完成度の高い企画」を目指した。
当日は各日数百人規模での参加者があった。ただ眺めていくだけの参加者もいたが、各ブースでの体験まで持ち込むことができた割合がこれまでの企画と比べて体感的に非常に高かった。またそれぞれのブースが異なった体験を提供できたことで、数時間以上の長い時間滞在した参加者も多くいたことも特筆すべきである。さらに、同様の実践を行っている出展者と多くの意見交換ができたことも大きな成果であった。