名大のカラスたち ~たれかカラスの善悪を知らん~
辺りが薄暗くなり、ぐっと冷え込んでくる2月の夕方。
カメラを構えた私の目の前で、昼間静かだった文系地区の一角がにわかに騒がしくなる。どこからともなく集まってきたカラスたちが、屋上にびっしり並んで鳴き交わしたり、突然一斉に飛び立ったりしている。
学生・教職員にとってはもはや黄昏時の風物詩とも言える光景だが、どこか不気味さを感じさせるかもしれない。
近隣諸国を見ても、日本ほどカラスが跋扈する国はないらしい。この国が彼らに好かれた理由は、未だに謎だ。
いつ始まりいつ終わるとも知れぬ我々と彼らのくされ縁、少しだけ紐解いてみよう。
都市生態系とカラス
雑食性のカラス達にとって都市部は餌の宝庫であり、摩天楼のひしめく街にもちゃっかり住みついているが、その多くは樹木をねぐらにしている。
東山丘陵の二次林に築かれた名古屋大学には今も豊かな自然が色濃く残っており、カラス達にとっては絶好の棲みかと言えるだろう。
多い時には、2000羽以上ものカラスが棲息しているようで、面積当たりの個体数は東京などの大都市圏と比較しても多い。
人間の目線から見れば、ゴミを荒らしていた、真っ黒で気味が悪いなど、なにかと疎まれることが多いのがカラスだ。
しかし、そんなカラスも種子散布や植生への養分供給といった点では、都市生態系の一翼を担う存在である。
いなくなれば、そのバランスが崩れかねない。
都市生態系における木々は、断片的に分布する。いってみればコンクリートの海に浮かぶ小さな島のようなものだ。
カラスは、市街地で補給した養分を糞の形で木々に供給することで、そこで利用できる養分量の多寡を左右していると言われている。
生態学でいうところの『キーストーン』の役割だ。
具体的な影響については未解明な部分も多いが、我々の目に映る要素だけがカラスの色ではないのは確かだろう。
編集後記・参考文献
或るとき研究棟の勝手口に、「カラスに注意」という貼り紙をみつけた。
どうやら購買で買ったパンに糞を落とされた教授が、教授会で問題に取り上げた結果、貼られるようになったという噂があるが真偽のほどはわからない。なにをどう「注意」すればよいのかわからぬ私は、とりあえずあまり近づかないことにした。遠目で見るカラスは目の位置もわからぬほど真っ黒で、道に広がる糞だけがペンキのように真白だった。(編集:佐藤知生)
『カラスの教科書』2013/松原始 雷鳥社
『カラスの自然史』2010/樋口広芳・黒沢玲子編 北海道大学出版会
Fujita, M., & Koike, F. (2009). Landscape Effects on Ecosystems: Birds as Active Vectors of Nutrient Transport to Fragmented Urban Forests Versus Forest-Dominated Landscapes. Ecosystems, 12(3), 391–400.