円形の2階建ての建物の上に、多面体のドームが載るというふしぎな外見。かなり年季が入っているように見えます。
学内でも最も標高が高い一角に建ちます。
木々に遮られて、道路からは一部しか見ることができません。
玄関の上部には、「宇宙線望遠鏡第3号 チェレンコフ望遠鏡」の文字が。これも古いものです。
3号という名の通り、6号機まで製作・運用されてきたそうです。
反対側に回り、古くて重い扉を開け、薄暗い内部に入ります。
明かり取りの窓は小さいため、内部は昼間でもかなり暗くなっています。
制作されてからの長い年月を感じさせる案内板がありました。
本機に先立つ1,2号機の観測は、オリオン座方向の狭い領域に強い宇宙線源があることを示唆しました(関戸ら, 1959)。
その正体を明らかにするため、より高感度に、より狭い領域を観測できる3号機が提案(1957年)、建設されました(1960年)。
内部に入ると、いきなりこの巨体!(暗さのため、ブレてしまいました・・・)。
さしわたし10メートルほどの円形の通路の上に、2つの筒が浮かんでいます。これが宇宙線望遠鏡第3号!
筒の幅は4m, 長さは13mあり、上下左右に向けることができます。ちなみに1、2号機の全長はともに3m程度でした。
望遠鏡の仕組みを表した図です。地球に飛来した宇宙線は、大気と衝突して中間子という素粒子をシャワー状に発生させ、さらにミューオンという素粒子に崩壊します。ドームを通り抜けて望遠鏡の筒の中に飛び込んだミューオンは、大気中で光速を超えた速度で走ることで、チェレンコフ光という微弱な光を発します。これを望遠鏡の鏡で集めて光電管で検出し、宇宙線の到来方向を導くという計画でした。
先ほどの反対側に回ってみます。ホコリが壁面や床にうっすらと積もり、建設されてからの年月を物語ります。
空気もいくぶんホコリっぽく感じます。正面に見える階段から下に降りてみます。
ドームの底に降りてみました。
望遠鏡が上を向いた際は、望遠鏡のお尻がここに入ってくる仕組みです。
周囲の机の上には、電子部品の加工に用いる機材がたくさん置かれており、作業場実験室として使われていることが分かります。
望遠鏡を真下から見上げてみます。
標準的なカメラレンズではとても全体が写らないため、魚眼レンズを使用しています。
写真中で上下に見える2つの架台で支えられており、上下方向に動かせます。
通路に沿って置かれたレールに乗って、水平方向にも回転します。

通路に戻ります。
架台部分には階段があり、ここから望遠鏡内部に入ることができます。
さて、狭くて急な階段を上がってみましょう。
階段を上がりきると、人が1人立つのがやっとのスペースがあります。
転落しないように要注意です。
四角の穴が望遠鏡への入り口です。
見えにくいですが、扉が手前に開いています。
入り口の周囲には、望遠鏡を上下に回転させるギアやモーターが設置されています。
これだけの大きさの望遠鏡を駆動させるだけあって、ギアは非常に頑丈そうです。
足場は非常に悪く、三脚を立てるスペースもありません。
軍艦のハッチのような扉をくぐって中に入ります。
観測するチェレンコフ光は非常に微弱なため、外部からの光を完全に遮蔽するために二重扉になっています。
もちろん中は真っ暗です。
恐る恐るヘッドランプで照らすと、真っ黒な内側が浮かび上がります。
見渡すと、右側に何か機械が置かれています。
右側を照らすと、奥に4mの直径を持つ巨大な円形の鏡がありました。
手前に見えるのは、鏡で反射した光を受ける受信器です。
左奥には「禁煙」と書かれていますが、ここでタバコを吸おうとする豪の者?がいたのでしょうか。多数のケーブルが木枠にそって壁面を走っています。望遠鏡に負荷がかからないよう、三脚のみを望遠鏡内に置いて、レポーターは扉付近にいます。
ウロコのように見える小さな鏡が、片方の望遠鏡に1174枚ずつ組み合わされています。光・赤外や多くの電波望遠鏡と異なり、主鏡で反射した光は直接受信器(光電管)に入ります。光電管は微弱な光を増幅する検出器で、2519素子が組み合わされています。実は一つ一つの鏡は凸面鏡になっているため、反射した光は広がって進み、隣接する4つの光電子増倍管に同時に入射します。信号が複数の増倍管で同時にキャッチされたかどうかを調べることで、ノイズとチェレンコフ光を切り分ける設計になっているそうです。
鏡の反対側です。密閉された構造になっていることがよく分かります。左上は外部への扉です。
通路に戻り、レール付近を観察してみます。巨大なレールと車輪です。コンパクトな宇宙線源の観測のため、望遠鏡は天空のさまざまな位置を観測できるよう設計されました。しかし、1,2号機で明確に観測されたように見えた宇宙線源は、3号機での観測では確認することができませんでした。宇宙線は電荷を持つため、地球の磁場に絡めとられて正確な到来方向を探ることはできません。1,2号機が観測した宇宙線源は、観測機器に現れた誤差であったと現在では考えられています。
ホコリをかぶったモーター。静かに眠っているようです。
ドームの外には、第6号望遠鏡の入った建物がありました。こちらは20年以上にわたって宇宙線を継続的に観測しています。
同じ機械で測り続けることで、宇宙線強度の時間変化を正確に捉えることができるそうです。
編集後記・引用文献
山の上地区に大きなドームが鎮座していることは知っていましたが、内部に入って宇宙線望遠鏡3号機を見たのは、10年以上前に名大に縁を持ってから今回が初めてでした。論文に記載されている1,2号機での宇宙線点源の兆候は非常に明確で、私なら3号機での検出を疑わないだろうと思います。建設・観測の指揮を執った関戸さんの心中は想像に余りありますが、理学の試みの中にはこのような逸話が多く眠っています。
名大の自然科学の歴史は、地道な技術開発の歴史でもあります。自然の理を捉えようという先人の奮闘について、ぜひ多くの方に知っていただきたいと願っています。
Sekido Y. et al., 1959, Physical Review, 113(4)